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主文

1 被告らは,原告に対し,各自5億円及びこれに対する平成13年10月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

本件は,株式会社日本債券信用銀行(以下「日債銀」という。)の資産を譲り受けた原告が,Hゴルフ場開発プロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)の事業資金に係る日債銀のプレビア株式会社(以下「プレビア」という。)に対する融資に関し,融資金のほとんどが実質的に回収されず日債銀が損害を受けたとして,上記融資当時の取締役であった各被告に対し,善管注意義務違反を理由に,実質回収不能額約66億2500万円のうち5億円について損害賠償を求めるものである。
1 争いのない事実等(認定事実については,文末に証拠を掲記する。)
(1) 当事者等
ア 原告は,「特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法」に基づき設立された株式会社であり,「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律」(以下「金融再生法」という。)53条に基づき,預金保険機構と協定の上,特別公的管理の開始決定を受けた銀行から資産を買い取り,これを管理,回収,処分することを業務の一つとしている。
イ(ア) 日債銀は,中小企業者に対する長期資金の貸付け等を目的として,長期信用銀行法に基づき設立された株式会社である。
日債銀は,巨額の不良債権を抱えたことによって経営が破たんし,平成10年12月13日,金融再生法36条1項に基づき,特別公的管理が開始され,特別公的管理が終了した後である平成13年1月4日,株式会社あおぞら銀行に商号を変更した(甲総1)。
(イ) 事業室は,昭和57年,日債銀の関連会社に関する基本方針の立案,関連会社の運営状況の管理等を目的として設置された部署であり(甲総20),昭和62年6月に貸出権限が付与された後は,一般の取引先に対する融資における部店に相当するものとして,関連会社に対する融資に係る貸出申請書を作成するようになった。
(ウ) 事業企画室は,平成3年11月5日,特定取引先の経営支援に関する企画,立案,推進及び資産保有会社の運営を担当し,期間を限定して設置される臨時の組織である「特定機構」として設置された(甲総5,6)。
(エ) 事業企画委員会は,平成3年11月5日,日債銀グループの延滞債権等に係る担保物件等の処理に関する基本方針の決定,物件処理状況の把握,資産保有会社が保有する物件の決定などの役割を果たすものとして設置された(甲総4)。
(オ) 業務企画部は,平成2年7月の組織改革以前は,同部を統括していた常務取締役が個別の融資の最終決裁を行うなど,個別の融資の決裁にかかわっていた(証人M)が,上記組織改革に伴い,業務企画部では個別の融資の決裁業務は行わず,国内営業部店の部店運営に関する支援,助言,指導,調整及びこれに係る関係部に対する意見具申,受与信業務に関する部店目標,月次計数の管理などの業務を所轄することになった(甲各78,乙3,丙10)。
ウ(ア) 被告Aは,昭和58年6月から平成8年6月まで日債銀の取締役の地位にあった者であり,この間,昭和60年6月には常務取締役,平成2年6月には代表取締役専務,平成6年6月には代表取締役副頭取に昇進した。
被告Aは,昭和62年6月から平成元年10月まで事業開発第2部(以下「事開2部」という。)等を,平成2年6月から平成3年6月まで新橋支店等を,平成3年6月から平成4年3月まで事業室及び平成3年11月に新設された事業企画室等を,それぞれ所管していた。
(イ) 被告Bは,平成元年6月から平成4年6月まで日債銀の取締役の地位にあった者である。
被告Bは,昭和62年6月に事開2部が設置された当初から事開2部の部長を務めていたが,平成元年6月に取締役に就任した後も平成3年6月まで引き続き事開2部の部長を兼任し(ただし,平成3年1月以降は,関連ノンバンク対策チームのリーダーとしての職務に専念),その間,平成2年6月から平成3年6月まではD専務取締役補佐(事開2部)を務めた後,平成3年6月から平成4年3月まで,A専務取締役補佐(事業室,営業第2部及び営業第7部)となり,さらに,平成3年11月5日以降は,上記地位に加え,同日新設された事業企画室の室長の地位にあった(丙5の1ないし5の18)。
エ プレビア
プレビアは,日債銀の関連ノンバンクである日本トータルファイナンス株式会社(以下「NTF」という。)の不良資産を譲り受けて,これを活性化させて売却することを目的とするいわゆる不良資産の受皿会社として,平成3年5月15日にNTFの100%出資子会社として設立された会社である。
オ 株式会社J
Jは,昭和58年に飲食業を主な業務内容として設立された会社で,同年4月,同社が経営するレストラン「T」の事業資金として日債銀から1億2500万円の融資を受けたことを契機として,日債銀との取引を開始した。
(2) 日債銀のプレビアに対する融資等
ア 日債銀の融資決裁手続
平成3年11月当時,日債銀の国内居住者に対する融資手続は,部室店(証券部,公共法人部,国際企画部,資本市場部,事業開発第1部,事開2部,事業室及び営業部店)が貸出しを行う場合,融資先を所管する部室店(以下「融資申請部室店」という。)からの貸出申請について,審査部の事前審査を経て,当該融資申請部室店の担当取締役が決裁するものとされていた(甲総3)。
イ(ア)a 事業室は,平成3年11月27日付けで,長期事業資金として,プレビアに対する160億円の貸出申請をした(以下「本件貸出申請」といい,本件貸出申請に係る申請書を「本件貸出申請書」という。)。
本件貸出申請書の添付書類によれば,融資金の使途は,Kが行うKカントリークラブ造成資金80億円,Jが行う本件プロジェクトに係る事業資金70億円,その他10億円とされていた。
b 本件貸出申請については,審査部の審査を経て,被告Aが,平成3年11月27日,担当役員決裁書(甲各1の1。以下「本件決裁書」という。)に決裁印を押なつして本件貸出申請に係る融資を決裁し,これを承認した(以下「本件融資決裁」という。)。
(イ) 上記(ア)の融資決裁手続を経て,日債銀は,プレビアに対し,平成3年11月29日,160億円を貸し付けた(上記160億円の貸付けのうち,後記(ウ)のJに対する貸付けの資金とされた70億円に係る部分を「本件融資」といい,その貸付金を「本件融資金」という。)。
(ウ) プレビアは,Jに対し,平成3年12月2日,日債銀から融資を受けた上記160億円のうち70億円を貸し付けた。
(3) 本件プロジェクトの進行
ア 本件プロジェクトは,Jの100%出資により設立された株式会社Hを事業主体として進められていた北海道函館市におけるゴルフ場開発プロジェクトであり,株式会社Cが昭和48年に取得していた北海道自然環境等保全条例に基づく特定開発行為の許可(以下「特定開発行為の許可」という。)に基づく地位の承継承認を得た上で,Hがゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)の開発を進めるとともに,Jと株式会社Qとの共同出資によりゴルフ場の運営を行う会社(以下「新事業主体会社」という。)を設立し,同社がHの株式を譲り受けることにより,本件プロジェクトにかかわる一切の権利を承継することが計画されていた(甲各2の5)。以上のような計画の下に,本件プロジェクトについては,平成2年5月ころ,Jから事開2部や新橋支店に話を持ち込まれ,同年6月には,当時の事開2部長であった被告Bが,同年7月には,当時の新橋支店長であったIが,現地視察をするなどして(甲各51),日債銀からJに対する融資を念頭に置いた検討が進められていた。
イ 北海道知事は,平成3年12月3日,Hが提出した特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認申請に対し,これを受理できないと回答して(甲各43),承継承認申請書を返戻し,その後もJは特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認を得られないまま本件プロジェクトはとん挫した。
(4) 本件融資等に係る貸金の回収等
ア Jは,プレビアに対し,平成5年4月30日,1億7500万円を返済し,プレビアは,同日,日債銀に対し,1億7500万円を返済した。
イ(ア) プレビアのJに対する本件プロジェクトに係る貸付残高は,平成4年11月30日までに合計9億9000万円の追加融資がされ,上記アの返済後,本件ゴルフ場の用地(以下「本件用地」という。)への抵当権設定費用として4050万円を貸し付けたことから(甲各30),最終的には78億5550万円となったが,その全額が回収不能となった(弁論の全趣旨)。
(イ) 日債銀のプレビアに対する貸付残高は,本件融資と他の融資を一本化した結果,約646億6300万円となった。
ウ プレビアは,平成11年2月25日に自己破産の申立てを行い,同月26日,東京地方裁判所により破産宣告を受けた(甲各36)。
エ Hは,株式会社Eに対し,平成12年12月5日,本件融資に係る担保であった本件用地を2億円で売却した。
オ 上記アないしエの結果,本件融資金は,約66億2500万円が実質的に回収不能となった(以下「本件損害」という。)。
(5) 債権譲渡
日債銀は,原告に対し,平成12年8月31日,金融再生法53条1項2号,預金保険法附則7条1項に基づいて,特別公的管理前の日債銀の役職員に対する損害賠償請求権を含む資産を譲渡した。
(6) 時効の援用
被告Aは,原告に対し,平成14年4月16日の第5回口頭弁論期日において,本訴請求に係る損害賠償債権の消滅時効を援用するとの意思表示をした。
2 争点及び争点についての当事者の主張
(1) 本件融資における各被告の役割ないし職務
〔原告の主張〕
ア 被告A
被告Aは,本件融資の最終決裁権者である事業室担当取締役の地位にあり,本件融資決裁を行った。
イ 被告B
本件融資は,事業企画室が企画,立案し,事業企画委員会の承認を得た上で貸出申請がされたものであるが,被告Bは,以下の(ア)ないし(ウ)から推認されるとおり,① 事業企画室の室長として,本件融資案件を選定し,本件貸出申請に必要とされる資料を取りそろえ,Jと交渉して本件融資条件を決定し,本件貸出申請書の原案を作成するなどして,本件融資を企画,立案し,② 事業企画委員会の構成員として,本件貸出申請に先立ち,本件融資を承認した上,③ 本件融資決裁に当たり,これに異議をとどめることなく,専務担当取締役補佐(事業室等)として,本件決裁書の担当役員の決裁印欄の脇に添印(以下「本件添印」という。)を押なつし,被告Aの本件融資決裁を可とすることにより本件融資の実現に関与した(以下「役割①」ないし「役割③」という。)。
(ア) 役割①に関して
a 被告Bは,昭和62年6月から平成2年6月27日まで,事開2部長の地位にあり,平成元年11月まで,Jに対する様々な融資案件に関与し,平成元年11月,新橋支店が開設されると同時に,Jに対する融資案件の担当部店が新橋支店となった後も,事開2部当時の部下であって,当時,新橋支店の支店長であったIと緊密に連絡を取り合いながら,Jに対する融資案件に取り組み,平成2年7月には,本件用地の視察などを行っていた(甲各51)。
b 本件融資決裁に先立って,従来Jを担当していた新橋支店が作成した平成3年11月22日付け「面談記録」(甲各67)は,事業企画室と業務企画部に回覧されている上,本件貸出申請前日の同月26日には,事業企画室の副室長であったIとプレビアのSが,JのU社長らと面談し,本件融資条件を確認し,貸出申請前に担当部店が作成する事前協議書ないし「取引先動向メモ」に相当する内容が記載された同日付け「面談記録」(甲各3)が作成された。
c 本件貸出申請は,事業室の名前でされているが,これは,事業企画室が独立の勘定機能を有していなかったからにすぎない。
このことは,事業室の担当者は,本件貸出申請書を清書したにすぎず,それゆえ,本件決裁書の部店使用欄には,融資申請部室店である事業室のメンバーの押印に先立ち,事業企画室長である被告Bほか事業企画室のメンバーが押印しており,また,同欄に記入された文章は,事業企画室の者によって記載されていることからも明らかである(甲各1の1,甲各70)。
d なお,本件融資当時,業務企画部が各部店からの情報収集とアドバイスを行い,融資金額の枠の調整などの業務を分担したことはあるが,所管する企業も持たず,融資申請権限もない業務企画部が中心となって,本件融資を企画,立案したとみることはできない。
(イ) 役割②に関して
本件融資の前に,業務企画部の者から審査部の者に対して交付されたメモにおいて,事業室から本件貸出申請を行うこと,本件貸出申請については,平成3年11月27日に,「F-A-G-B-L-P」の各役員からなる事業企画委員会で口頭説明,了解を得ていること等が記載されていた(甲総8)。
(ウ) 役割③に関して
a 補佐となる取締役の職務権限は,統轄となる取締役との間で,実情に応じて適宜職務を分担することになっており,被告Bも,被告Aの補佐として,同人の職務と権限とを実質的に分担しており,被告Aは,被告Bに対し,営業第2部及び営業第7部の貸出申請案件については,被告Aの決裁に先立ち,事前チェックをするように指示していた。
b 被告Bは,本件添印を押なつしているが(甲各1の1),本件添印は,営業第2部及び営業第7部の貸出申請案件と同様に,本件融資の可否について,被告Aの指示により,事前チェックを行い,その実行に問題がないとの判断を明らかにする趣旨のものとみるべきである。
c 事業企画室の室長としての被告Bの押印は,既に本件決裁書の部店使用欄にされているのであるから,あえて被告Bが主張するような趣旨で添印をするのは不合理であり,その押なつされた場所からしても,本件添印を単なる確認印とみるのは不自然である。
〔被告Aの主張〕
原告の主張(1)の事実は認める。
〔被告Bの主張〕
原告が主張する事実のうち,被告Bが,本件融資当時,事業企画室の室長であったこと,A専務取締役補佐(事業室等)を委嘱されていたことは認めるが,その余は否認する。
ア 役割①について
(ア) 本件融資は,当時の日債銀の経営にとって喫緊の課題であった関連ノンバンクの不良債権対策の一環として,日債銀の経営トップ以下が,すべての組織の総意の下に,各組織及び個人が協力してプレビアの収益対策として適切と考えられる案件を選定し,融資が決定された特殊案件であって,通常の融資案件のように,一組織,一個人に企画,立案の責任を負わせることができるような案件ではない。
本件融資に当たっての日債銀各組織の役割をみるならば,最終的な案件の決定及び行内調整に大きな力を発揮したのは,融資対象となり得る情報が集積していた業務企画部であり,貸出申請を行ったのは,貸出規定上関連会社を所管する事業室であったのであり,事業企画室は,プレビアの運営を担当しており,かつ,そのメンバーであるIが前任部署の関係でたまたま本件プロジェクトに関する情報を有していたという関係があったにすぎない。
(イ) そもそも,事業企画室の担当職務は,特定取引先(関連ノンバンク)の経営支援に関する企画,立案,推進であり(甲総5),職務分掌上,新規融資案件の企画,立案は業務とされていないし,本件融資程度の融資案件を企画,立案するには,通常少なくとも3か月程度の期間を要することからすると,平成3年11月5日に発足した事業企画室が,本件融資の企画,立案をすることは不可能であった。
(ウ) 本件プロジェクトに対する融資については,平成3年11月にその取上げが決定される以前から,新橋支店及び事開2部において,日債銀からJとQとの共同出資による新事業主体会社に対する融資という形で,その可否について相当程度詳細に検討されていたのであって,本件融資は,新事業主体会社が設立されるまでのいわゆるつなぎ資金をプレビアからJに対して融資し,この融資をプレビアの収益対策として利用することを企図して取り上げられることになったものである。
Jに関する情報や本件プロジェクトの進捗状況等,本件融資案件の良否を判断するための情報は,新橋支店に蓄積されていたのであり,平成3年11月22日付け「面談記録」(甲各67)が新橋支店において作成されており,本件融資後における本件プロジェクトの進捗状況の把握も新橋支店で行っていたことからも明らかなように,本件融資案件の良否について判断を示し,本件プロジェクトの進捗状況等を把握するという意味においては,新橋支店が融資申請部室店に相当する役割を担っていたものというべきである。
(エ)a 被告Bが本件融資以前に,Jが進めていた別のプロジェクトに係る融資案件の審査に関連して,本件プロジェクトの存在を知っていたことは認めるが,このことをもって,直ちに事業企画室が本件融資を企画,立案したとみることはできない。
b 通常,日債銀で新規の融資案件を取り上げる場合には,融資申請部室店において,「取引先動向メモ」ないし「回議書」を作成し,当該案件の概要,融資条件を記載した付属書類を添付して,担当部長が担当役員の決裁,関連部署の合議了解を得た上で,貸出申請をすることになるが,前記のとおりの特殊案件であった本件融資については,「取引先動向メモ」も「回議書」も存在していない。
平成3年11月26日付け「面談記録」(甲各3)は,「取引先動向メモ」ないし「回議書」に相当する文書ではなく,プレビアの運営を担当していた事業企画室が,プレビアの社内文書をコピーして回覧したものにすぎない。
本件融資に関し,あえて「取引先動向メモ」ないし「回議書」に相当する文書を探すとすれば,新橋支店が作成した同月22日付け「面談記録」(甲各67)以外にはない。
c 本件決裁書の部店使用欄に,事業企画室のメンバーの印が押なつされていることは認めるが,これは,事業企画室のメンバーのうち,プレビアの運営に対する指導を所管していた「運営班」のメンバーが,プレビアの最初の収益対策案件である本件融資の内容を承知していることの確認印にすぎない。
イ 役割②について
事業企画委員会の役割は,資産保有会社が保有する物件の決定等にあり(甲総4),個別の融資案件を承認する業務を担当するものではない。
事業企画委員会の委員が本件融資を了解した(甲総8)というのは,上記役割に関連するものとして,プレビアの収益対策として事業室から2件の貸出しを行うこと,当該案件の概要が口頭で説明され,了解されたにすぎないのであって,事業企画委員会の了解は,本件融資の可否を判断するような意味を持つものではない。
ウ 役割③について
(ア) 被告Bが委嘱された「補佐役」は,行内にその職務権限に関する明文規定がなく,実務上の位置付けがあいまいで,常駐のポストではなかった。
「補佐役」は,日債銀内部においては,常務取締役以上に昇進せず,かつ,部室店長を兼任している場合以外の平取締役について,事務分担についての肩書がなくなってしまうことから設けられたポストにすぎない。原告の主張によっても,専務取締役補佐が,個別の融資案件に関し,具体的にいかなる権限を有し,いかなる業務を委嘱されていたのかは全く明らかにされていない。
(イ) 本件添印は,被告Bにおいて,本件融資がプレビアの最初の収益対策案件であることを認識している旨を明確にするため,事業室の室長であったRから要請を受けて押なつしたものであり,被告Bが本件融資決裁に関与したことを意味するものではない。
(2) 各被告の善管注意義務
〔原告の主張〕
預金を受け入れ,又は利付債権を販売することによって,国民又は法人から広く資金を集め,これを貸付金として運用する日債銀のような長期信用銀行においては,経営の安全性を確保するため,貸付金の返済に支障を生じるような不良債権を防ぐことが重要であり,長期信用銀行法7条が特に「長期信用銀行は,長期資金に関する貸付等に基づく債権については,その特殊性にかんがみ,その保全及び回収の確保を図るため,確実な担保を徴し,又は分割して弁済させる方法をとる等特別の考慮をしなければならない。」と定めていることからしても,長期信用銀行の取締役には,融資の安全性を確保し,確実な担保を取得するようにその職務を行うことが法律上求められている。
したがって,被告Aは,本件融資の最終決裁権者である事業室担当取締役として,また,被告Bは,役割①ないし③を行う取締役として,その職務を行うに当たり,不良貸付けを防ぐため,十分な審査体制をとり,関係法令及び日債銀の貸出しに関する諸規定を遵守することはもとより,① あらかじめ貸付先の財務内容,事業遂行能力を把握し,② 資金使途を含めた事業計画の内容・実現性を十分に検討するとともに,③ 当該事業の業況の正確な分析の上に返済財源の確実性を精査し,かつ,④ 確実にして十分な担保を徴して貸付金の回収に万全の措置を講ずべき善管注意義務を負っていた(以下,「義務①」ないし「義務④」という。)。
加えて,被告Bは,前記(1)〔原告の主張〕イ(ア)a記載のとおり,本件融資以前から本件プロジェクトに深く関与していた者として,役割①ないし③を行うに当たり,本件融資を阻止すべき善管注意義務をも負っていた。
〔被告らの主張〕
原告の主張は,日債銀が銀行全体として負う注意義務を一般的,抽象的に述べるものであって被告らの善管注意義務としては失当である。
(3) 注意義務違反の判断基準ないし判断方法
〔原告の主張〕
銀行の取締役に善管注意義務に違反する点があるかどうかを判断するに当たっては,企業経営者一般ではなく,銀行の取締役を基準として,判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがあったか否か,又は判断の過程,内容が著しく不合理なものであったか否かが判断されなければならない。
そして,被告らの主張する経営判断の原則,信頼の原則の適用については,以下のア及びイに述べるとおりである。
ア 経営判断の原則の適用について
金融機関の取締役の融資判断について,経営判断の原則が適用されるとしても,金融機関の経営の健全性は,預金者,ひいては国家の金融システム全般の信頼性の問題にもつながりかねない重要な問題であり,法が金融機関の経営の健全性を確保するための諸規定を定めていることからすれば,金融機関の取締役は,融資決裁に当たっての調査,検討をより慎重に行わなければならず,それに基づく意思決定において採るべきリスクを通常の企業より小さく限定しなければならないから,一般の企業の取締役に比して,その裁量権の範囲は厳格に解すべきである。
イ 信頼の原則の適用について
被告らが主張する信頼の原則の適用は,米国における議論から引いたものであると思われるが,上記議論の前提と異なり,我が国における取締役は,従業員としての業務に従事する中で蓄積された専門的知識,経験,判断能力等を評価されて任命されるのが実態であり,日常的に会社業務に従事しているのであるから,米国における議論と同一には論じられない。しかも,信頼の原則は,その無限定さ故に,安易な信頼に保護を与え,取締役の業務監査機能を形骸化する結果となる。
したがって,信頼の原則の適用は慎重にすべきである。
〔被告らの主張〕
ア 経営判断の原則
取締役の責任の判断には,原則として,いわゆる経営判断の原則が適用され,取締役に善管注意義務違反があったか否かは,判断の基礎となる事実の認定又は意思決定の過程に,通常の企業人として看過し難い過誤,欠落があるため,それが取締役に付与された裁量権の範囲を逸脱したものとされるかどうかによって判断されるべきである。
金融機関であっても,法的には,株式会社の形態を取り,株主の利益を追求すべき義務を負っていることは他の株式会社と異なるところはないから,原告の主張するように,取締役の裁量の幅を過度に厳格に解することは妥当ではない。
また,本件融資は,平成3年11月に行われたものであるから,当時の融資業務に携わっていた取締役に要求された必要な知見を基準としなければならないというべきである。
原告の主張は,バブル経済崩壊以後の考え方を前提としており,誤っているというほかない。
イ 信頼の原則
日債銀のように決裁システムが確立された大規模な銀行においては,融資決裁を行う取締役は,営業部店,審査部等が誠実に業務を遂行しているものと信頼して決裁業務を行うことが許されるのであり,融資決裁を行う前提として,判断の基礎となる資料,情報収集については,営業部店,審査部等の情報収集,検討結果につき,特に問題とすべき事情が見当たらない限り,それが融資業務にかかわる者の基準に従って誠実に行われたものと信頼することができるというべきであり(信頼の原則),決裁担当取締役が,貸出申請書及びその添付書類に記載されている事実の有無について,自ら原資料に当たって事実調査を行うことは要求されていない。
(4) 各被告の善管注意義務違反
〔原告の主張〕
被告Aは本件融資決裁を行い,被告Bは役割①ないし③を行うに当たり(以下,両被告の行為を併せて「本件融資決裁等」という。),以下のとおり,① Jに本件プロジェクトを遂行する能力,実績がないことを知り得る立場にありながらこれを看過し,② 本件プロジェクトの計画がずさんで,本件ゴルフ場の開発行為に必要とされる許認可を得ることが困難であることを十分に調査せず,③ 事業計画で予定されているゴルフ会員権販売価格が実現不可能なものであることを看過し,④ 直接の貸付先であるプレビア及び転貸先であるJのいずれからも十分な担保を徴求しないまま(以下「義務違反①」ないし「義務違反④」という。),本件融資決裁等を行ったものであり,各被告の本件融資決裁等の前提となった事実の認識には重要かつ不注意な誤りがあり,その判断の過程,内容が銀行の取締役として不合理,不適切なものであったことが明らかであるから,各被告の本件融資決裁等はその裁量権の範囲を逸脱し,義務①ないし④に違反したものというべきである。
ア Jの事業遂行能力の欠缺を看過したこと(義務違反①)
(ア) 本件融資当時,Jは,金融機関から約430億円にのぼる多額の借入金を抱え,本業であるレストラン事業の営業は不振であり,利息の支払が経営を圧迫しており,しかも,ゴルフ場開発事業に関しては,これを完成させた経験すら有しておらず,Jには,本件融資当時,本件プロジェクトを遂行するための能力が備わっていなかった。
(イ) 日債銀は,本件融資当時,Jのメインバンクであり,同社の財務内容や業績の悪化については,担当部店である新橋支店を中心に十分に把握しており,Jが本件プロジェクトに先立って進めていた栃木県W町におけるゴルフ場開発(以下「Wプロジェクト」という。)及び北海道X町におけるゴルフ場開発(以下「Xプロジェクト」という。)に係る融資等に当たっての,平成3年当時の審査部所見においても,Jの財務内容,資金繰り,業績について相当の懸念のあることが指摘されていた。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の状況や各被告のJとのかかわりからすれば,各被告は,Jの財務内容,資金繰り,業績について相当の懸念があり,Jには本件プロジェクトの遂行能力がないことを知り,又は容易に知り得たことは以下に述べるとおりであり,それにもかかわらず,各被告は,これを看過したものというほかはない。
a 被告Aについて
被告Aは,審査部に所属した経験を有し,その後,営業第1部融資第1課長,同融資本部長を歴任するなど,融資についての豊富な経験を有していた上,昭和62年6月から平成元年10月までは事開2部担当取締役として,平成2年6月から平成3年6月までは新橋支店担当取締役として,Jに対する融資にかかわっており,新橋支店の支店長であったIから大口の融資先であるJの経営状況についての概括的報告も受けていたほか,平成3年2月当時,Xプロジェクトに係る追加融資についての審査部所見にも目を通していた。被告Aの上記のような経歴,経験からすれば,同被告は,Jに本件プロジェクトの遂行能力がないことを容易に知り得たことは明らかである。
b 被告Bについて
被告Bは,昭和58年6月から昭和61年6月まで営業第2部長を,昭和62年6月から平成2年6月まで事開2部長を歴任し,ゴルフ場開発プロジェクトに対する融資を多数手掛けた経験を有していた上,営業第2部長当時からJのU社長と情報交換をするようになり,事開2部長当時には,Jが手掛けていたWプロジェクトやXプロジェクトに深く関与していた。被告Bの上記のような経歴,経験からすれば,同被告は,Jにはゴルフ場開発の実績もなく,その能力もないことを知っていたものということができ,仮にそうでないとしても,本件融資の時点で,新橋支店に確認すれば,Wプロジェクト及びXプロジェクトの進捗状況やJの財務状況について把握することは容易であったことが明らかである。
イ 資金使途の虚偽を看過したこと(義務違反②)
(ア) 本件貸出申請書の添付書類においては,本件融資の資金使途は,「Hカントリークラブ事業資金」とされ,本件用地の代金が90億円であり,これを本件融資金70億円とその他の借入金20億円で賄うことが明記されていた(甲各2の1ないし2の4)。しかし,実際には,本件用地のうちCが取得済みであった分(61万5840平方メートルで,全体の約45%)は,JがH名義で7億円で既に取得していたほか,隣接地の買収も行い,併せて約136万平方メートルの土地を取得済みであり,これらの土地の取得価格は多く見積もっても25億円程度であった(甲各31ないし33)。そして,現実には,本件融資金のうち44億5308万円がJからF株式会社への支払に,その他については,相当額がJの預金口座を介してJの他の金融機関に対する利払いその他運転資金に充てられており,本件貸出申請書の添付書類の資金使途に関する記載は虚偽であった。
(イ) 本件貸出申請には,以下のaないしdのような本件貸出申請書及びその添付書類上の矛盾,不備等があった。
a 本件用地の代金90億円について,本件融資とその他の借入れ20億円により賄うとされながら,その他の借入れについて,どこからの調達が予定されているのか,本件貸出申請書には何らの記載もなく,添付書類もない。
b 本件貸出申請書の添付書類(甲各2の4)には,「(用地)100%取得済」と記載されている部分があり,「土地代」として90億円を要することと明らかに矛盾している。
仮に,本件貸出申請書の添付書類にいう「土地代」が,既に調達した土地の代金支払のための借入れの肩代わり融資を意味するとしても,この点に関する裏付け資料は全くない。
c 本件用地の代金90億円の合理性について,何らの説明もなく,何らの根拠資料も添付されていない。
d 本件貸出申請書の添付書類(甲各2の4)の「(2) 資金計画」においては,資金調達について,本件融資70億円,その他の借入れ20億円,会員募集106億円と記載されているが,会員募集による収入が106億円では,本件融資70億円とその他の借入れ20億円の償還財源が存しないことになる。
しかも,上記添付書類の「(4) 販売計画,収支計画」においては,会員募集計画が225億円と記載され,費用合計196億円を差し引いた見込み利益が29億円と記載されており,この記載は「(2) 資金計画」の記載と齟齬していた。
(ウ) 上記(イ)aないしdのような矛盾,不備があることは,本件貸出申請書及びその添付書類の記載自体から各被告において認識可能であり,しかも,各被告が目を通した,本件融資決裁の前日に当たる平成3年11月26日付け「面談記録」には,「本件資金はJ.V.会社が買い取るまでのつなぎ資金であり,貸出額は買取り予定価格80億円を考慮したものである。」との記載がされていたのであって(甲各3),本件用地の取得に90億円かかったものを80億円で譲渡するようなことは常識的にあり得ず,このことからみても,被告らは,本件貸出申請書の添付書類の本件用地の代金が90億円であるとの記載に疑問を抱いてしかるべきであった。
(エ) 以上(イ)及び(ウ)のような状況の下においては,各被告は,義務②に基づき,本件用地の取得状況及び必要な土地代を裏付ける資料の提出を求めるべきであった。
土地の取得状況を確認するために,本件用地の登記簿謄本を確認すれば,当時,既にJが,H名義で,本件用地のうちCが取得していた分を取得していたほか,隣接地の買収も行い,併せて約136万平方メートルの土地を取得していたことが判明したはずであるし,また,土地代を裏付けるために,Jから本件用地の売買に関する契約書類を提出させれば,本件用地のうちCからの取得分の売買代金は7億円にすぎず,全体の土地代金90億円の記載が根拠のないものであることが判明したはずである。
それにもかかわらず,各被告はこれを怠り,本件融資金の資金使途が全体として根拠のないものであることを看過したか,又はそのことを知りながら,あえて本件融資決裁等を行った。
ウ ゴルフ場開発を行うための許認可を得ることが困難であることを看過したこと(義務違反③)
(ア) ゴルフ場開発を行うためには,都市計画法,森林法,河川法,建築基準法等の多くの法令に基づく許認可を得ることが必要であり,ゴルフ場開発事業にとって,法令に基づく許認可取得の見通しは,土地買収と並んで事業計画の実現性を左右する重要な要素である。日債銀においても,ゴルフ場開発に係る事業資金の融資に当たっては,許認可の取得状況の確認が必要とされており,審査部が作成した「ゴルフ場のチェックシート」(以下「チェックシート」という。)においても,開発許可取得状況の確認が必要とされていて,具体的には,指導要綱を確認の上,開発許可申請書の写し及び許可通知書をチェックし,その信ぴょう性と許可条件について都道府県の窓口にヒアリングを行い,裏付けを取ることが必要とされ,また,開発許可未取得ないし事前協議未了のゴルフ場開発事業については,原則として融資の対象とならないものとされている(甲総9)。
(イ) 本件ゴルフ場開発に関しては,① 平成2年11月に改正された「ゴルフ場開発規制要綱」(以下「規制要綱」という。)により,ゴルフ場の開設に関する北海道の対応が厳しくなったこと,② 本件プロジェクトは,Cからの事業承継という形を採ることが予定されていたが,Cが北海道知事から特定開発行為の許可を取得したのは17年も前のことであること,③ 本件プロジェクトは,Cが特定開発行為の許可を得た面積を越えてゴルフ場を開発しようとするものであったことからすれば,Cが特定開発行為の許可を得ていたこと及びJが特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認の申請をしたことだけを確認しただけでは不十分であったことはいうまでもない。
Cは,昭和55年に開発行為廃止の届出をしており,このため,北海道は,Hに対し,本件融資直後の平成3年12月3日,本件ゴルフ場に係る特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認の申請は認められない旨の回答をしているのである。
(ウ) 本件貸出申請書の添付書類には,本件ゴルフ場開発に係る法令に基づく許認可に関して,「立地承認済み(前事業者が取得した開発許可を,当社が継承する旨確認済み)。」との記載があるのみで(甲各2の4),いつ,誰が,どのように確認したか全く不明で,許認可通知書の写し等,許認可を裏付ける資料は一切添付されていなかった。
(エ) 以上(ア)ないし(ウ)のような状況の下においては,各被告は,義務②に基づき,チェックシートに従った手続を履践すべく,担当部署に指示して,直接,関係行政機関に対して,前事業主が得ている許認可の内容,事業承継の見通しなどについて問い合わせを行わせ,本件ゴルフ場開発に係る許認可が得られるかどうかの見通しに関して,事前に確認をさせるべきであった。仮にこれをさせていれば,本件融資の時点において,Hが特定開発行為の許可に基づく地位の承継を承認される見通しがないことを容易に把握し得たことは明らかである。
それにもかかわらず,各被告は,これを怠り,あるいはそもそも,本件ゴルフ場開発に係る法令に基づく許認可手続がどのような段階にあるのかを調査することすら怠り,本件融資の時点において,本件ゴルフ場開発に必要とされる許認可が得られる見通しがないことを看過した。
エ 会員権募集の見通しを誤ったこと(義務違反③)
(ア) 本件貸出申請書の添付書類(甲各2の4)「(4) 販売計画,収支計画」によれば,本件プロジェクトの収支計画は,所要資金196億円に対し,会員募集により平均募集額1500万円で1500人の会員募集を行い,総額225億円を回収するものとされていた(以下「本件会員権販売計画」という。)が,本件融資が取り上げられた平成3年11月当時においては,いわゆるバブル経済の崩壊の結果,ゴルフ会員権価格も大きく下落しており(甲各34),本件融資当時,本件会員権販売計画を成功させる見通しについては重大な懸念があった。
(イ) 上記(ア)のような状況の下においては,各被告は,義務③に基づき,平成2年当時のゴルフ会員権相場に関する情報誌の記事(甲各34)などの情報を入手した上,本件会員権販売計画が実現可能か否かを十分検討すべきであった。仮に,上記情報を入手し,検討していれば,本件会員権販売計画に重大な懸念があることは容易に認識し得た。
それにもかかわらず,各被告はこれを怠り,上記(ア)の実情を看過し,それに基づく見通しを見誤った。
仮に,情報を入手して,検討を加えた上で本件会員権販売計画が実現可能であると判断したのであれば,その判断は,著しく合理性を欠くものであった。
オ 十分な担保を徴求しなかったこと(義務違反④)
(ア) 本件融資に当たり,日債銀がプレビアから徴求する担保は,プレビアの転貸先であるJに対する貸出債権の譲渡予約であり,プレビアがJから徴求する担保は,本件用地についての根抵当権設定であるから,本件融資の担保の実質は本件用地であったといえる。
本件貸出申請書の添付書類の担保評価は,本件会員権販売計画に基づく会員権募集価格の総額をもとに算定されているが,担保物件からの債権回収が必要となるのは,本件プロジェクトがとん挫した場合である。
この場合,本件用地は,単なる山林,原野であり,土地としての価値は低く,取得額ベースでみても土地に対する通常の担保の掛け目である70%程度をかけると担保価値は17億5000万円程度と融資額のごく一部しかカバーしないものであった。
(イ) 各被告は,義務④に基づき,本件融資における担保を正確に評価すべきであったし,必要があれば,より確実な担保を徴求すべきであった。
それにもかかわらず,各被告は,その担保価値の算定に当たって,本件会員権販売計画に基づく会員権募集価格の総額をもとにした不当な評価を看過し,より確実な担保を徴求しなかった。
〔被告らの主張〕
決裁担当取締役は,営業部店,審査部等が,誠実に業務を遂行しているものと信頼して決裁業務を行うことが許されることは前記のとおりであり,被告らは,以下のとおり,本件融資決裁等に当たり,決裁資料とすることが職務上期待されている貸出申請書及びその添付書類並びに審査部の審査部所見に基づき,諸要素を勘案しており,上記各資料に表れた諸要素に照らすならば,被告らが本件プロジェクトについて,その採算性,実現性を疑うべき事情は見当たらず,被告らが,本件融資決裁等に当たって,裁量権を逸脱し,その善管注意義務に違反したとはいえない。
ア Jの事業遂行能力
(ア) 本件融資決裁等がされた平成3年11月当時,Jは,事開2部の助言を受けながら,Wプロジェクト及びXプロジェクトを推進しており,Xプロジェクトについては,スポーツ業界大手のQとの共同出資によりゴルフ場運営会社を設立している状況にあり,日債銀の関係各部署において,その事業遂行能力について相応の評価がされていた。
すなわち,Jの事業展開について深く関与していた事開2部に所属していたSは,Jを事業展開力のある会社であると認識していたし,Jを所管する新橋支店の支店長の経歴を有するIも,Jを日債銀との間で信頼関係の厚い会社であり,支援を継続していく先と認識していた。
(イ) 本件貸出申請書の添付書類においても,Jの事業遂行能力に関し,「プロジェクト性も充分認められるため取組みに懸念ないものと思われる」,「両プロジェクトとも成算性に懸念なく信用力も認められる」(甲各2の3),「当社とQは北海道X町で同様のスキームによるゴルフ場開発推進中の実績あり」(甲各2の4)との記載があり,その事業遂行能力についての疑問などの指摘は全くなかった。
そして,本件融資に関する審査を担当したNは,平成3年5月まで,Jを所管する新橋支店の副支店長を務めていたのであるから,仮にJの事業遂行能力に問題があったとすれば,その旨記載したはずであるが,審査部所見にはそのような記載がない。
また,本件融資に関する審査部所見の特記事項を記載した審査部副部長のOは,Jに対する融資を数多く担当していたが,そのOもJの事業遂行能力については全く触れていない。これらのことも,日債銀の関係各部署において,Jの事業遂行能力に問題がないと認識されていたことの証左といえよう。
(ウ) 以上の(ア)及び(イ)の事情の下においては,被告らがJの事業遂行能力に問題がないと判断したことについて,何ら非難されるべき点はない。
イ ゴルフ場開発を行うための許認可
(ア) 本件ゴルフ場開発に当たっては,Cが昭和48年ころ取得した特定開発行為の許可に基づく地位をHが承継することが予定されていたが,行政実務上,開発行為に必要とされる許認可を新たに取得するのに比して,許認可に基づく地位を承継することは容易であると考えられており,本件プロジェクトは,そのような行政実務を背景に進められていた。
(イ) 日債銀の関係各部署は,本件融資が取り上げられる以前から,本件プロジェクトに対する融資について検討を開始していた。
事開2部に所属していたSは,平成2年7月ころ,函館市の都市計画課に電話をし,本件ゴルフ場開発予定地を特定した上で,特定開発行為の許可に基づく地位の承継が可能であるかどうか,平成2年11月から施行される規制要綱に基づく総量規制の対象となるか否かを確認したが,この際,本件ゴルフ場開発については,上記承継が可能であり,その場合には総量規制の対象とはならないとの回答を受けたため,特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認が得られると認識した。
Sは,その後も,Jから行政とのやりとりの報告を受けていたこと,平成3年11月までに,Jから特定開発行為の許可に基づく地位の承
継承認の申請を行ったとの報告を受け,行政の受理印のある申請書のコピーを受け取ったことから,上記申請に対する承認が得られ,本件ゴルフ場開発を行うための許認可については問題はないと認識していた。
一般に,ゴルフ場開発に係る許認可に当たっては,行政庁は,申請者との間で事前の協議を重ね,申請を許可することが事実上決まった段階で,申請書を受理することが多く,Sの上記認識は,このような行政実務を背景とするものである。
直接の担当者であるSの上記のような認識を背景として,日債銀の関係各部署においては,本件ゴルフ場の開発については,許認可の点に問題はないものと認識されていた。
(ウ) 本件貸出申請書及びその添付書類には,「用地100%取得済みで許認可等の入口リスクもほぼクリアー」(甲各1の2),「立地承認済み 前事業者が取得した開発許可を当社が継承する旨確認済」(甲各2の4),「立地条件,許認可取得にも懸念なく」(甲各3)などの記載があるのみで,許認可が取得できないおそれがあるなどといった指摘は一切されていなかった。
(エ) 以上(ア)ないし(ウ)の事情の下においては,被告らが本件ゴルフ場開発については,許認可取得に問題がないと判断したことについて,何ら非難されるべき点はない。
ウ 担保の徴求
(ア) 担保徴求状況は,原告主張のとおりであるが,本件融資に当たっての物的担保については,当時既にゴルフ場開発用地の担保評価について確立した査定手法に従い,76億5000万円と評価されていたのであり,本件融資当時,この査定手法が不当であるとは考えられていなかった。
(イ) 本件貸出申請書及びその添付書類には,「不動産(根)登記保留,見込融資比94%」(甲各1の2),「本件についてはファイナンス案件の保全状況も相応の評価ができる」(甲1の2),「債権保全の点でも不動産担保第1順位,見込融資比率92%(J)~と担保力~に不安なく,回収に懸念ないものと思われる」(甲各2の3),「担保状況 ⑤見込価格 7650百万円 ⑦見込比率92%」(甲各2の4)と記載され,債権保全状況には問題がないとされていた。
(ウ) しかも,本件プロジェクトは,JとQとが共同出資して,ゴルフ場の運営を行う新事業主体会社を設立し,同社がHの株式を譲り受けることにより,本件プロジェクトにかかわる一切の権利を承継することを予定して進められていたから,デベロッパーであるJからすれば,開発を進めているゴルフ場の買主がもともと決まっているようなものであった。したがって,本件融資について,上記株式譲渡代金による貸付金の回収が具体的かつ現実的に予測されていたものといえる。
(エ) 以上(ア)ないし(ウ)の事情の下においては,被告らが本件融資に当たって担保の徴求に問題がないと判断したことについて,非難されるべき点はない。
エ その他の原告の主張について
本件融資金は,実質本件プロジェクトがとん挫したために,回収不能になったのであるが,本件プロジェクトがとん挫した原因は,本件ゴルフ場開発に必要とされる許認可を得られなかったことにある以上,仮に,Jの財務状況,資金使途,会員権募集の見通し等について,被告らに何らかの注意義務違反があったとしても,これは損害の発生と無関係というべきであるが,上記各点についても,被告らに何らの注意義務違反もないことは以下のとおりである。
(ア) Jの財務状況
Jは,平成3年3月期は売上高約82億円,経常利益5300万円,減価償却額1億3600万円(甲各2の4)という実績を有する会社であり,主たる事業であるゴルフ場開発プロジェクトからの収益が上がらない時期としては,その財務状況は悪いものではない。現に,本件貸出申請書の添付書類には,「貸出先は信用力も高」いとの記載がされていたし(甲各2の3),本件融資に関する審査を担当したN及び審査部所見の特記事項を記載したOのJとのかかわりは前記のとおりであり,N又はOは,Jの財務状況を当然知っていたはずであるのに,審査部所見ないしその特記事項には,その財務状況が特に注意を要するなどの記載は全くない。また,平成3年11月に行われた日銀考査においても,Jが危険な貸出先として業況及び与信状況等を報告するよう指示された大口取引先等には含まれていなかった(乙15)。
これらのことからすれば,日債銀の関係各部署において,Jが危険な貸出先として認識されていなかったことが明らかである。
(イ) 資金使途
本件貸出申請書の添付書類において,本件融資の資金使途は「事業資金」とされており,「土地代」である旨の記載はないから,資金使途が土地代であるとの主張は,原告の誤った理解に基づくものである。
また,本件貸出申請書の添付書類に記載された「土地代」は,純粋な本件用地取得代金ではなく,許認可の取得費用,環境アセスメントの費用,住民対策費等を含めた金額である。
すなわち,本件融資の資金使途に関しては,純粋な本件用地取得代金として90億円が見積もられていたのではなく,本件プロジェクトの推進主体となる新事業主体会社が,本件用地の所有者であるHの全株式を譲り受け,本件プロジェクトにかかわる一切の権利を承継する際に支払うべき代金として90億円が見積もられていたのであり,本件貸出申請書の添付書類の資金使途に関する記載に虚偽がある旨の原告主張は誤読に基づくものというべきである。
本件融資金の実際の使途については知らないが,使途の記載として,事業資金の借換えを予定して事業資金とすることは何ら不当ではない。
(ウ) 本件会員権販売計画
本件融資当時,ゴルフ場ビジネスはバブル絶頂期からすれば衰えはみえたものの,いまだ堅調であったし,再び景気は上向きになり,再び株価,地価,ゴルフ会員権も上昇するという見方が一般的であった(乙2)。
平成3年には多くのゴルフ場が完成し,ゴルフ場入場者数も史上最多数を記録していたし,北海道で建設中のゴルフ場36件のうち,1000万円以上の会員権販売価格を予定していたゴルフ場が15件もあり(乙1),本件会員権販売計画は実現可能なものと考えられていた。
当時の景気及び地価等の動向についても,反転・高騰が強く懸念されており,平成3年12月の不動産融資規制解除について,いわゆるトリガー条項がつけられていたほどであった(乙2)。
以上のような状況下で,会員権販売価格が決せられたのであり,1500万円の会員権販売価格は現実的な価格であった。
(5) 原告の各被告に対する損害賠償請求権についての消滅時効の成否
〔被告Aの主張〕
ア 取締役の会社に対する損害賠償責任(商法266条1項5号)の消滅時効期間
(ア) 会社と取締役との間の委任契約は商行為であり,商行為によって生じた債権として5年の消滅時効にかかるものには,商行為を原因とする債権のみならず,これと実質的に同一性を有する債権も含まれるから,取締役の善管注意義務違反を理由とする損害賠償請求権も5年の消滅時効にかかるものというべきである。
(イ) 取締役の会社に対する責任が10年間存続すると解するのは,① 取締役を余りにも長期間不安定な立場におき,保守的な経営を余儀なくし,企業の活動を萎縮させること,② 社会状況が変化した後に10年前の取締役の行為について評価することとなり,裁判を通じて的確な判断を行うことが期待し難いほか,証拠が散逸して事実認定が困難となること,③ 取締役が有する権利である報酬請求権の消滅時効が5年とされていることとの整合性を欠くことから,適切ではない。
一方で取締役の会社に対する責任が5年しか存続しないとしても,株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律上の大会社において,株主が取締役の違法行為を関知することの困難性は,3名以上いる監査役の存在などにより,緩和されているといえるから,責任追及が困難になるとはいえない。
以上の実質的な理由からも,取締役の善管注意義務違反を理由とする損害賠償請求権は5年の消滅時効にかかるものというべきである。
イ 時効の起算点と時効の完成
(ア) 本件融資決裁は,平成3年11月27日であり,原告は,本件融資決裁に当たり,被告Aには善管注意義務違反があったと主張している以上,平成8年11月27日の経過をもって,本訴請求に係る損害賠償請求権の消滅時効は完成していることになる。
(イ) 仮に,合理的に損害を確定し得るときから消滅時効が進行すると考えたとしても,原告の主張によれば,平成3年12月3日には特定開発行為の許可に基づく地位の承継が承認されないことが公的に確定していたというのだから,同日以降においては,本件融資が実行されたことによる損害を合理的に確定することができたということができ,平成8年12月3日の経過をもって,本訴請求に係る損害賠償請求権の消滅時効は完成していることになる。
〔原告の主張〕
ア 商法266条1項に基づく責任は,任務懈怠であるかどうかにかかわりなくそこに列挙した行為を行った取締役に責任を課した法定の特別責任であって,同条項に基づく損害賠償請求権は,商事債権ではないから,その消滅時効期間は民法167条1項の一般原則により10年と解すべきである。
イ 上記のように消滅時効期間を10年と解した場合の不都合として被告Aが主張する,① 取締役を長期間不安定な立場におくこと,② 社会状況が変化した後に10年も前の行為について正当な評価を加えることは,証拠の散逸もあって困難であること,といった理由は多分に感覚の問題にすぎず,③ 取締役が有する権利である報酬請求権が5年とされていることとの整合性を欠くとする点も,上記のように商法266条1項に基づく責任が法定責任であって報酬請求権と整合性を保つ必要性はないことから批判として当たらない。
むしろ,商法266の3に基づく取締役の第三者に対する責任について,消滅時効期間が10年と解されている(最高裁判所昭和49年(オ)第768号昭和49年12月17日第三小法廷判決・民集28巻10号2059頁)こととの均衡からしても,上記のように解するのが相当である。
ウ したがって,本訴請求に係る損害賠償請求権の消滅時効はいまだ完成していない。

第3 争点に対する判断

1 本件融資における各被告の役割ないし職務
被告Aが本件融資の最終決裁権者であったことは当事者間に争いがないので,以下,被告Bが本件融資に当たって果たした役割ないし職務について検討する。
(1) 役割①について
ア 争いのない事実等に加え,後に掲げる証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) Jと日債銀との関係
a 争いのない事実等(1)オ記載のとおり,日債銀は,Jに対し,昭和58年4月から融資を行っていた。
もともとは,営業第2部がJを所管しており,昭和58年6月から昭和61年6月まで営業第2部長を務めていた被告Bは,JのU社長と,そのころから面識があった(甲各80)。
b 昭和62年6月に,日債銀の各営業部店が融資対象として取り上げることを検討をしている不動産関連のプロジェクトにつき,当該プロジェクトの内容を調査し,これを評価するとともに,当該プロジェクトを推進しようとしている企業に対する助言等を行う部署として事開2部が開設されると同時に,被告Bは事開2部長に就任し,JのU社長は,被告BにWプロジェクトについて相談を持ち掛けるなどするようになった(甲各80,乙5)。
c 平成元年11月に新橋支店が開設された際,何件かの取引先と共にJの所管も新橋支店に移され,同時に事開2部がJが計画しているゴルフ場開発プロジェクトに正式に関与することになった(甲各73,甲各80,乙5)。
d 本件プロジェクトについても,平成2年5月ころ,新橋支店及び事開2部に話が持ち込まれ,事開2部の関与の下に,Jの100%出資により設立されたHが,用地買収を進めるとともに,Cが昭和48年に取得していた特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認を得て本件ゴルフ場の開発を進めた上で,JとQとの共同出資によりゴルフ場の運営を行う新事業主体会社を設立し,同社がHの株式を譲り受けることにより,本件プロジェクトにかかわる一切の権利を承継することが計画されていた。
しかし,本件プロジェクトについては,いまだ開発行為に必要とされる許認可に係る行政庁との事前協議も完了していないことや,Jに対しては,既にWプロジェクト及びXプロジェクトの事業資金が融資されていたことなどの事情があったため,新橋支店において,本件プロジェクトに係る事業資金の融資が具体化することはなかった(甲各73,甲各80,証人I)。
(イ) プレビアと日債銀との関係
a 争いのない事実等(1)エ記載のとおり,プレビアは,NTFの不良資産を譲り受けて,これを活性化させて売却することを目的とする,いわゆる不良資産の受皿会社として,平成3年5月15日に設立されたNTFの100%出資子会社である。同年11月当時の実働部隊は4名で,いずれも日債銀及び日債銀関連ノンバンクからの出向者で構成されていた(証人S)。
b 争いのない事実等(1)イ(ウ),甲各71号証及び証人Mの証言によれば,日債銀は,そのころ,関連ノンバンクの不良債権の処理を迅速に行う必要があったことから,平成3年11月5日,日債銀の関連会社を管理し,関連会社に対する貸出申請を所管する事業室の外局的な特定機構として,特定取引先に関する経営支援に関する企画,立案,推進を分業する事業企画室が設置され,事業企画室にプレビアの運営がゆだねられることになった。
また,争いのない事実等(1)イ(エ)記載のとおり,同時に,日債銀グループの延滞債権等にかかる担保物件等の処理の基本方針を決定する機関として事業企画委員会が設置された。
c 事業企画室の室長には被告Bが,副室長には,事業企画室の開設まで新橋支店の支店長を務め,本件プロジェクトに関する情報を有していたIが就任し,営業第5部に所属し,Kが進めていたKカントリークラブの開発計画(以下「K案件」という。)についての情報を有していたZも事業企画室に配属された。
また,プレビアに出向したSは,出向まで事開2部に所属し,Jが進めていた本件プロジェクトを含むゴルフ場開発案件を担当していた(甲各80,丙16,証人S,証人I)。
d プレビアは,その運営を独自の判断で行うのではなく,事業企画室の指示を受けて行っており,プレビアのSは,事業企画室のI,Z及びY主任調査役と毎日のようにミーティングを開いていたが,事業企画室の室長である被告Bがこれに加わることもあった(甲各72,証人S,証人I)。
(ウ) 本件融資の経緯
a プレビアは,平成3年11月当時,NTFが担保権を設定していた不動産を買い取り,これを運用することを主な業務としていたが,上記業務によってすぐに収益を生じる見込みがない一方で,不動産買取資金に対する金利負担が予想された。
このため,日債銀としては,プレビアの金利負担を補填する目的で,何らかの収益対策を立てる必要があり,事業企画室とプレビアとのミーティングの中で,上記収益対策として,日債銀からプレビアに融資した資金をプレビアに転貸させて利ざやを稼がせることが計画され,日債銀が融資対象として検討中の案件の中から,プレビアの転貸先を選定することとなり,業務企画部のMが,各営業部店にプレビアの収益対策にふさわしい融資案件を上げるように指示をした(丙1,証人S,証人M,証人I)。
b こうした検討を経て,平成3年11月下旬ころ,プレビアからJに対する本件プロジェクトに係る事業資金の融資(以下「本件プロジェクト案件」という。)とK案件とが検討対象となった(甲各72,証人S)。
c Mが,Jを取引先として所管していた新橋支店との間で,Jに対する本件プロジェクトに係る事業資金をプレビアから融資するための調整や,上記2件の融資案件につき,総額160億円の融資枠を取るために関係部署との調整を進める一方で(甲各72,証人I,証人M),Iは,プレビアを介してJに対する本件プロジェクトに係る事業資金を融資することにつき,Jを所管する営業部店である新橋支店の了解を得た上,同支店から,同年11月22日,本件プロジェクトが全面的に支援したい案件であり,JとQとの共同出資による新事業主体会社が設立され,日債銀から新事業主体会社に対する事業資金の貸出しを検討するまでのつなぎ融資を,プレビアにあっせんしたいとする同日付けの「面談記録」を取得した(甲各67,証人I)。
この「面談記録」は,事業企画室内で回覧されるとともに,業務企画部のMにも回覧された(甲各67)。
d IとSは,同月26日,JのU社長らと面談し,プレビアからJに対する貸出条件を協議した(甲各3)。
この面談の後には,本件融資条件のほか,本件プロジェクトに対する融資を取り上げるのを相当とする理由が記載された同日付けの「面談記録」(甲各3)が作成され,これは,被告Bの指示により,事業企画室で回覧され,被告Aもこれを閲覧した(甲各3,証人S)。
e 同月27日,被告A,被告Bらが出席して事業企画委員会が開催され(丙4),この中で,Iから,プレビアの収益対策として,日債銀から本件融資を含む合計160億円の融資を行うことが口頭で説明され,出席者の了承を得た(甲総8,証人M,証人I)。
f 事業企画委員会に出席していたMは,L業務企画部長の指示により,日債銀からの資金融資の下にプレビアが2件の貸出しを行うこと,このことについては事業企画委員会で口頭の了解が得られていること,審査部に対しては事業室からプレビアに対する簡単な融資申請しか上がらないことなどを記載したメモ(以下「Mメモ」という。)を作成し,審査部のO副部長に交付した(甲総8,証人M,証人N)。
g 本件貸出申請書は,事業室に所属するVが記載して,事業室が融資申請部室店として貸出申請をした形式が採られたが,Vは,事業企画室から渡された平成3年11月26日付けの「面談記録」(甲各3)に従って本件貸出申請書を記載するとともに,本件貸出申請書に添付する会社概要を記載した文書(甲各2の2)並びに取引方針,資金使途及び担保・保証に関して記載した文書(甲各2の3)は,いずれも事業企画室のIほか1名からの説明に基づき記載し,その他の添付書類についても,すべて事業企画室から提供されたものを添付した(甲各70,証人R)。
h 審査部では,Nが審査を行い,審査部所見欄を記載した後,O副部長が特記事項を記入した(甲各1の2,証人N)。
本件決裁書には,審査部の審査終了後に融資申請部室店が記入する部店使用欄があり,部店使用欄の正規の押印欄には,被告Bを初めとする事業企画室のメンバーが押印し,同欄の記載も事業企画室の者が行い,事業室のメンバーは,脇に設けられた押印欄に押印した(甲各1の1,証人R)。
イ 以上の認定事実によれば,日債銀では,子会社であるプレビアの収益対策として,日債銀からプレビアに融資した資金を転貸することによってプレビアに利ざやを稼がせることが計画されたが,平成3年11月当時のプレビアの実働部隊はわずか4名であって,プレビアが独自に融資先を探すことはできなかったし,また,融資の妥当性を判断し,審査する能力はなかったことから,プレビアに資金を融資する日債銀において,プレビアの転貸先を選定し,貸出申請に必要とされる資料を取りそろえ,融資条件を決定するなどの業務を行う必要があったものということができる。そして,事業企画室は,特定取引先に関する経営支援に関する企画,立案,推進を分掌する特定機構として設置され,プレビアの運営をゆだねられており,プレビアの運営については,事業企画室の指示の下で,プレビアと事業企画室とが一体となって決定していたのであるから,日債銀の組織の中で,プレビアの経営支援を目的とした上記計画を推進するために,プレビアの転貸先を選定し,融資条件を決定するなどの業務を分掌する部署は,事業企画室にほかならなかったものと認めることができる。
実際にも,本件貸出申請に先立って,Jを所管していた新橋支店は,JとQとの共同出資による新事業主体会社が設立され,日債銀から新事業主体会社に対する事業資金の貸出しを検討するまでのつなぎ融資をプレビアにあっせんしたい旨を記載した平成3年11月22日付けの「面談記録」を作成し,これをIに交付していること,この「面談記録」は事業企画室内で回覧されていたこと,プレビアからJに対する貸出条件の協議には事業企画室のIが同席し,この面談後に作成された上記貸出条件や本件プロジェクトに対する融資を取り上げることを相当とする理由などが記載された同月26日付けの「面談記録」が事業企画室内で回覧されたこと,同月27日開催された事業企画委員会においては,プレビアの収益対策として,本件融資を含む合計160億円の融資を実行する予定であることが事業企画室の副室長であるIによって説明されたこと,本件貸出申請書の記載に当たっては,事業企画室のIらが,その記載内容を事業室の記載担当者であるVに指示し,必要な添付書類を提供したこと,本件決裁書の部店使用欄の正規の押印欄には事業企画室のメンバーが押印をし,同欄の記載も事業企画室の者が行っていることなどの事実にかんがみれば,本件融資を具体的に企画,立案した上,本件貸出申請を行うことを決定したのは,事業企画室にほかならず,被告Bは,事業企画室の室長として,上記決定についての最終判断を行う役割を果たしたものと認めるのが相当である。
ウ(ア) もっとも,甲各1号証の1によれば,本件決裁書の部室店名には「事業室」との記載があり,前記ア(ウ)gに認定のとおり,本件貸出申請書も事業室を融資申請部室店として作成されており,事業室が本件貸出申請の主体であったようにもみえる。
しかしながら,前記ア(ウ)cに認定したように,新橋支店が作成した平成3年11月22日付け「面談記録」(甲各67)は,事業企画室と業務企画部に回覧されているが,事業室には回覧された形跡がないこと,同dに認定したように,本件融資直前のJのU社長との面談では,貸出条件が協議され,この面談後に作成された同月26日付け「面談記録」は事業企画室に回覧されているが,この面談に事業室の者が立ち会った形跡も,上記「面談記録」が事業室に回覧された形跡もないこと,本件貸出申請書を記載したのは事業室のVであるが,その記載内容は,事業企画室のIらが指示したものであり,本件決裁書の部店使用欄の記載は事業企画室の者が行い,その押印欄の使用状況が前記のようなものであったことからすれば,事業企画室が独立の勘定機能を有していなかったため,事業室が形式的に本件貸出申請の申請部室店となったにすぎず,本件融資を企画,立案し,本件貸出申請を行うことを決定したのは事業室ではなく事業企画室であった旨の証人Rの証言は信用することができ,本件決裁書の部室店名の記載や本件貸出申請が事業室の名で行われているとしても,上記イの認定は左右されない。
(イ) また,被告Bは,プレビアへの融資は,日債銀全体で取り組んだものであり,本件融資の決定に大きな力を発揮したのは業務企画部であり,本件融資の案件としての良否を判断するなど本件融資について融資申請部室店に相当する役割を担っていたのは新橋支店であると主張し,証人M及び被告Bはこれに沿う供述をする。
確かに,上記アに認定した事実関係に証人Mの証言及び被告B本人尋問の結果を総合すれば,プレビアの収益対策となり得る融資案件を選定するためには,これにふさわしい高額な融資案件の有無を全行規模で調査し,融資枠を設定する必要があり,そのためには,日債銀全体の融資案件を把握している業務企画部の関与が必要であったし,また,Jを所管する営業部店である新橋支店から本件プロジェクトに関する情報の提供を受ける必要があったことは明らかである。
加えて,証拠(甲各22の1,同23の1,同24の1,同25の1)によれば,本件融資後の本件プロジェクトの進捗状況も,新橋支店において把握していたことが認められる。
しかし,争いのない事実等(1)イ(オ)記載のとおり,業務企画部は,本件融資がされた平成3年11月当時は,国内営業部店の部店運営に関する支援,助言,指導,調整及びこれに係る関係部に対する意見具申,受与信業務に関する部店目標,月次計数の管理などの業務を所掌しており,個別の融資申請を行うかどうかといった点について決定する権限は有していなかったことが明らかである。
また,新橋支店がJを所管していたことは前記ア(ア)cに認定したとおりであり,本件プロジェクトに関する各種の情報を新橋支店において把握していたことは明らかであるが,新橋支店においては,本件プロジェクトに対する融資は具体化するには至っていなかったことも同dに認定したところであって,本件記録を精査しても,プレビアの収益対策として本件融資を行うに当たり,新橋支店がJとの間で融資条件について協議をするなどその企画や立案に関与し,又は本件貸出申請を行う旨の決定に関与したことをうかがわせる証拠はない。
業務企画部や新橋支店は,本件融資に当たり,それぞれが所掌する業務に関連して,事業企画室に協力したことは認められるものの,業務企画部や新橋支店が,本件融資を行うことを具体的に企画し,立案した上で,本件貸出申請を行うことを決定したとみる余地はなく,業務企画部及び新橋支店の本件融資についての上記のようなかかわりを考慮しても,上記イの認定は左右されない。
(ウ) さらに,被告Bは,事業企画室が平成3年11月5日に発足したばかりで,本件融資を企画,立案をすることは不可能であったと主張するが,前記ア(ア)d,(イ)cに認定したところからすれば,本件プロジェクト案件については,それまでJに対して融資をしていた新橋支店の支店長であったIが,K案件については,営業第5部に所属していたZが,個々の案件及び融資先の財務状況等に詳しく,また,本件プロジェクトについては新橋支店から情報提供を期待することができたことからすれば,被告Bが主張する事情を考慮しても,事業企画室が本件融資を具体化して企画し,立案することが不可能であったとはいえない。
以上のほか,上記イの認定を左右する事実を認めるに足りる証拠はなく,被告Bは,事業企画室長の職務を担当する取締役として,本件融資を具体的に企画,立案し,本件貸出申請を行うことを決定したものというべきである。
(2) 役割②について
平成3年11月27日,事業企画委員会が開催され,被告Bはこの委員会に出席していたこと,この中で,Iは,プレビアの収益対策として,本件融資を含む合計160億円の融資を行うことを口頭で説明したこと,このとき,プレビアに対する融資が反対されたことはなく,了解されたことは,前記(1)ア(ウ)eに認定したとおりである。
しかしながら,証拠(丙4,証人I,証人M)によれば,プレビアの収益対策として予定されていた融資の説明については,この会議における議事録には記載されていないこと,上記融資に関する資料は,全く配られなかったことが認められ,このことに,争いのない事実等(1)イ(エ)記載のとおり,事業企画委員会は,日債銀グループの延滞債権等に係る担保物件等の処理に関する基本方針の決定,物件処理状況の把握,資産保有会社が保有する物件の決定などの役割を果たすものとして設置された委員会であり,個別の融資について,その申請を行うことや融資を実行することの可否を判断するなどの役割を担う組織ではないことを併せ考慮すると,Iの上記説明は,プレビアの収益対策として,本件融資を含む融資案件を取り上げる予定である旨の報告にすぎなかったものと推認され,事業企画委員会において,本件融資を行うことの可否を検討した上で,これに承認を与えたなどの事実は認められず,被告Bが,同委員会の構成員として,原告が主張する役割②を果たしたとは認めるに足りない
というべきである。
(3) 役割③について
ア 証拠(B本人,A本人)及び弁論の全趣旨によれば,日債銀においては,取締役の担当する業務が広範囲の場合,補佐役が付されることがあり,補佐役の権限については明確に定められた職務分掌規程等はなく,取締役と補佐役との間で,職務の分担がされていたこと,被告Aは,被告Bに対し,被告Bが事開2部長として,開発プロジェクトに対する融資に関与した経験が多く,かかる融資についての与信審査に精通していたことから,営業第2部及び営業第7部が所管する融資案件について,被告Aが上記各部の担当取締役として融資の決裁をするに当たり,被告Bが事前にその可否を審査し,問題があれば指摘するよう依頼しており,被告Bは,問題がなければ担当役員決裁書の担当役員の決裁印欄の脇に添印を押すこととされていたことが認められる。このことからすると,被告Aと被告Bとの間においては,営業第2部及び営業第7部が所管する融資案件については,被告Bがその与信審査に精通している開発プロジェクトに対する融資案件であることを理由に,被告Bが融資決裁の可否を事前に審査するという職務の分担がされていたことが認められる。
以上の事実に加え,被告B及び被告Aの各本人尋問の結果によれば,Rは被告Aから本件決裁書に被告Bの添印を得るように求められて,同被告に本件添印を押なつしてもらったことが認められること,被告Aが本件決裁書に被告Bの添印を得るように求めた趣旨は,本件融資がプロジェクト案件に対する融資であったことから,営業第2部及び営業第7部が所管する融資案件と同様に,被告Bに決裁前の審査を依頼することにあったものと認め
られること,被告Bも,担当役員決裁書に添印を押なつする以上は,問題がある案件であれば決裁権限者である被告Aに対し,融資をやめた方がよいと進言する立場にあったことは否定していないことを総合すると,本件融資決裁に当たり,被告Bは,被告Aから,決裁の可否を事前審査することを依頼する趣旨で,添印を押なつするように求められ,被告Bも,これを認識した上で,本件決裁書の担当役員の決裁印欄の脇に本件添印を押なつしたものと推認するのが相当であり,このことは,被告Bが,本件融資決裁に当たり,融資を可とすることの判断を示し,被告Aが本件融資決裁を行うのを補佐したことを意味するものというべきである。
イ 以上の認定に対し,被告Bは,事業室の室長のRから,本件融資がプレビアの最初の収益対策案件であることを,当時の事業企画室長として関連ノンバンク緊急対策の特命事項を担当していた被告Bも認識していることを明確にするため,本件決裁書の担当役員の決裁印欄の脇に確認印として押なつして欲しいという要請を受けたため,本件添印を押なつしたものであり,本件添印は,本件融資決裁に関与したことを意味するものではないと主張し,被告B本人もその旨の供述をする。
しかし,甲各54号証の1及び甲各55号証の1によれば,本件添印は,被告Bが営業第2部及び営業第7部が所管する融資案件について,被告Aとの職務分担の合意に基づいて,決裁の可否を事前に審査し,これを可とする場合と同様の位置に押なつされていることに照らすと,被告Bの上記供述を直ちに採用することはできず,他に上記アの認定を左右するに足りる証拠はない。
2 各被告の善管注意義務と善管注意義務違反の判断基準
被告Aはその職務として本件融資決裁を行い,また,被告Bは,事業企画室長の職務を担当する取締役として,本件融資を具体的に企画,立案し,本件貸出申請を行うことを決定した上,被告Aの職務を補佐する取締役として,本件融資を可とする判断を示し,被告Aが本件融資決裁を行うのを補佐したことは,1において説示したところである。
そして,日債銀の取締役である各被告には,上記各職務を処理するに当たり,善良なる管理者の注意をもってこれを処理する義務を負うことは明らかであり(民法644条,商法266条1項5号),特に日債銀のような長期信用銀行においては,長期信用銀行法7条が,「保全及び回収の確保を図るため,確実な担保を徴し,又は分割して弁済させる方法をとる等特別の配慮をしなければならない。」と定めていることからすれば,各被告は,上記各職務を行うに当たっては,本件融資から得られる利益と本件融資に伴う危険とを的確に把握した上で,本件融資が適法,適切であるか,本件融資に伴う危険に応じた適切な債権保全措置が採られているか等の観点から本件貸出申請の可否ないし本件融資の可否の判断を行うべき注意義務があったものというべきである。
このような判断を行うに当たっては,時間と情報の制約の下において,将来予測と専門性を伴う総合的な判断が求められており,上記各職務を処理するに当たり収集された情報を前提とする融資の可否に関する判断のいかんは,一義的に定まるものではなく,取締役の経営判断に属する事項として,各被告に裁量が認められるものというべきである。
したがって,各被告の融資の可否に関する判断が,上記裁量の範囲を逸脱し,善管注意義務に違反するものであるか否かは,判断の前提となった事実の認識に看過し難い誤りがあり,又は判断の過程,内容が取締役として著しく不合理であるか否かを基準として判断するのが相当である。換言するならば,当該判断の前提となった情報の収集,分析が当時の状況,事柄の重要性等に照らして明らかに合理性を欠き,又は判断の基礎となった情報を元にした判断の過程,内容に著しく不合理な点があった場合には,当該取締役の判断は,裁量の範囲を逸脱し,善管注意義務に違反するものとなるのである。
そして,日債銀のような大規模な組織においては,分業と権限の委任により広汎かつ専門的な業務の効率的な遂行が可能となっており,日債銀における融資決裁手続は,融資先を所管する融資申請部室店からの貸出申請に基づき,審査部の事前審査を経て,当該融資申請部室店の担当取締役が決裁することとされていることは争いのない事実等(2)アのとおりであり,このような審査体制の下においては,決裁担当取締役(これを補佐する取締役を含む。)は,原則として,融資申請部室店,審査部による情報の収集,分析が,それぞれに課される基準に従って誠実に行われたものと信頼して,その判断をすることが許されるものということができる。
しかし,このことは,単に融資申請部室店,審査部等から与えられた資料や情報のみを基に判断すれば足りるということを意味するのではなく,判断の基礎となる資料及び情報収集が適切にされ,審査が適切にされたことに疑いを差しはさむ事情があれば,融資申請部室店の判断や,審査部の審査結果を信頼することは許されないことはいうまでもなく,必要な資料や情報を収集することなく,安易にこれを信頼した結果,決裁担当取締役の判断の前提となった事実の認識に看過し難い誤りを来したような場合には,決裁担当取締役は,善管注意義務の責めを免れない。
以上に説示したところに従って,以下においては,各被告の上記各職務の処理が,その裁量の範囲を逸脱し,善管注意義務に違反するか否かを検討する。
3 各被告の善管注意義務違反
(1) 本件プロジェクトの客観的進捗状況等と日債銀において収集された情報
ア 本件プロジェクトは,平成2年5月ころ,Jから新橋支店及び事開2部に話を持ち込まれた案件であり,事開2部の関与の下で,Jの100%出資により設立されたHが,用地買収を進めるとともに,Cが昭和48年に取得していた特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認を得て本件ゴルフ場の開発を進めた上で,JとQとの共同出資により設立された新事業主体会社がHの株式を譲り受けることにより,本件プロジェクトにかかわる一切の権利を承継することが計画されていたこと,本件融資は,NTFの不良資産の受皿会社として設立された100%子会社であるプレビアの収益対策として取り上げられたものであって,日債銀がプレビアに対して貸し付けた資金を,プレビアが本件プロジェクトに係る事業資金としてJに貸付け,利ざやを稼ぐことが企図されていたことは,前記1(1)アに認定したところである。
以上の事実関係に弁論の全趣旨を総合すれば,プレビアが独自に本件融資金を返済することはおよそ期待されておらず,日債銀がプレビアに貸し付ける本件融資金の回収ができるかどうかは,専ら上記計画が成功するかどうかにかかっており,本件融資の可否を判断するに当たっては,本件プロジェクトが融資対象として適切であるかどうかを判断する必要があり,その判断に当たっては,上記計画が成功し,Jが新事業主体会社から支払われる株式売買代金によりプレビアからの借入金を返済することが可能であるかどうかの点が最も重要な検討事項であることは,本件融資にかかわった関係者の共通の認識であったものといえる。そこで,以下においては,本件プロジェクトの成否にかかわる事項を中心として,本件当時における本件プロジェクトの客観的進捗状況,日債銀の関係部署による情報ないし資料の収集状況などについて検討する。
イ 本件ゴルフ場開発に係る許認可
(ア) 上記アのとおり,本件プロジェクトについては,Hが,Cが昭和48年に取得していた特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認を得て本件ゴルフ場の開発を行うことが予定されていたが,証拠(甲各8,甲各43)及び弁論の全趣旨によれば,Hは,平成3年11月15日,北海道地方部振興課に上記地位の承継承認を求める申請書を提出したものの,Cが,昭和55年11月10日開発行為廃止届出書を提出していたため,北海道渡島支庁長は,Hに対し,本件融資直後の平成3年12月3日,Cから開発行為廃止届出書が提出されているので,上記承継承認申請書は受理できないと回答したことが認められ,仮に,日債銀のいずれかの者が,本件貸出申請前ないし本件融資を実行する前に北海道庁や函館市役所にCからの特定開発行為の許可に基づく地位の承継が承認されるかどうかについて,具体的に照会していれば,それが困難であることを容易に知り得る状況にあったものと推認することができる。
(イ) ところが,証拠(甲各8,甲各15)及び弁論の全趣旨によれば,本件貸出申請当時,日債銀が,上記の地位の承継承認に関してJから得た資料は,Jが作成した報告書(甲各15)と,Jが北海道地方部振興課に提出した承継承認申請書の写し(甲各8)のみであり,しかも,この承継承認申請書の写しは,北海道地方部振興課の受理印が押されているものの,受理番号は記載されておらず,これが正式に受理されたものであることに疑問を抱いてしかるべきものであったことが認められる。
そして,証人Iの証言によれば,前記認定のとおり,本件貸出申請を行うことを決定したものと認められる事業企画室の副室長の地位にあったIでさえも,Sか被告Bから許認可が取れそうな雰囲気があるという話を聞いただけで,プレビア又は事業企画室の者が監督官庁に上記承継承認が得られているのかどうかを確認をしたという報告は受けておらず,I自身も,この点の問い合わせを行っていないことが認められ,本件記録を精査しても,本件貸出申請前はもとより,本件融資決裁に至っても,Hが,Cが取得した特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認を得ているのか,又はその可能性がどれ程のものであるのかについて,上記資料以上の情報収集がされたことをうかがわせる証拠はない。
この点につき,証人Sは,平成2年9月ころ,函館市役所に電話をして特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認について確認したと供述するが,その供述によっても,Sは,この電話での確認の際に,Hカントリークラブという名称と開発地域の所在地を告げたものの,Cの名前は出さなかったというのであり,証人Sが供述する「確認」は,一般的に許認可の承継が可能であるかを問い合わせたにとどまり,本件ゴルフ場開発について,Cが取得した特定開発行為の許可に基づく地位を承継することが可能であるか否かを具体的に問い合わせたものと認めるには足りない。
以上によれば,本件プロジェクトに関しては,日債銀がJから取得した資料だけではCが取得した特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認が得られるか否かは明らかでなかったにもかかわらず,プレビア,事業企画室等の関係部署の担当者による北海道庁への確認は行われないまま,本件貸出申請がされ,本件融資決裁が行われたものといわざるを得ない。
(ウ) 上記(イ)に認定したように,本件貸出申請は,Cが昭和48年に取得した特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認に関しては,Jから,同社が作成した報告書と同社が北海道地方部振興課に提出した前記承継承認申請書の写しを取得したのみで行われており,証拠(甲各2の1ないし9,甲各67,証人N)及び弁論の全趣旨によれば,審査部に回付された本件貸出申請書の添付書類には,「(許認可)立地承認済(前事業者が取得した開発許可を,当社が継承する旨確認済。)」(甲各2の4)と記載されていたほか,本件融資に関する審査部の審査を担当したNがその資料として検討した平成3年11月22日付けの「面談記録」には,「許認可についてもほぼ目途がたっておりいわゆる「入口リスク」(事業化リスク)はクリアしていること。」(甲各67)と記載されているものの,開発許可申請書(写し)や許可通知書はもとより,日債銀の担当者が都道府県の窓口に聞き取り調査等を行って裏付けを取ったことが明らかとなる資料は何も添付されていなかったことが認められる。
このような状況であったにもかかわらず,証拠(甲総8,甲各1の2,甲各2の1,甲各74,丙4,証人N)によれば,審査部のNは,平成3年11月27日の午後5時30分に事業企画委員会が終了した後,本件の貸出申請書について審査を行う前に,同部のO副部長から,「○ プレビアから2件の貸出を行います(当行はバックファイナンスを行うので申請は事業室)○ 本件については11.27に「F-A-G-B-L-P」各役員からなるプレビア運営に関する事業企画委員会で口頭説明,了解を得ております。
○ 審査部には事業室からプレビアへの簡単な申請しか上りませんので,あらかじめメモをお持ちしました。」との記載があるMメモを受領し,O副部長から役員が了解しているとの話を聞かされたことから,本件融資については,既に役員が了解していて,本件貸出申請については,短期間で審査を終わらせることを求められていると考え,審査部所見欄には,「PJ計画の詳細チェック未了であり現状でのPJ案件評価は困難である」と記載した上で,「許認可等の入口リスクもほぼクリアー。」との記載の後に,「との部店判断」と記載するにとどめた。
同欄は,本来,審査部が独自に審査した結果を記載すべき欄であるにもかかわらず,以上のような事情で,本件貸出申請に対する審査部の所見は,融資申請部室店の判断がそのまま記載さ
れていることがうかがえる記載となっていた。
ウ Jの財務状況ないし本件プロジェクトの遂行能力
証拠(甲各60の2,同各61の2,同各62の2,同各65の2,同各81の2,証人S)及び弁論の全趣旨によれば,Jは,本件プロジェクトに先駆けて,Wプロジェクト及びXプロジェクトという二つのゴルフ場開発事業を手掛けていたが,上記各プロジェクトについても,平成3年11月当時,開発行為に必要とされる許認可を取得できないまま,事業資金の先行投資が重ねられている状況にあり,日債銀は,Jに対し,上記各プロジェクトに係る事業資金を含む多額の資金を新橋支店の貸出申請に基づき融資していたが,平成3年当時に行われた追加融資等に当たっての審査部所見においては,① 先行投資の負担が重く,財務状況が良好とはいえないこと(同年2月,同年3月27日,同年6月25日,同年8月27日及び同年11月26日の各審査部所見)② 日債銀グループからの借入れがその総借入に占める割合が70%を超えており,危険を分散する観点から他の金融機関との協調融資を行うことを検討すべきこと(同年2月の審査部所見),③ 日債銀から融資を受けた金員を予定されていた資金使途に違背して運転資金として流用したことがあること(同年8月27日の審査部所見),④ Jの資産を売却して,融資残高を削減することが急務な取引先であること(同年8月27日及び11月26日の審査部所見)などが指摘されており,審査部では,Jに対する融資を拡大することについて相当の懸念を有していたものと認められる。そして,融資決裁権者として,同年2月,3月27日及び同年6月25日の各審査所見に目を通していた被告Aは,このことを認識していたものと推認することができるし,また,前記認定のように事開2部長として,長くJが計画しているプロジェクト案件とかかわりを持ってきた被告Bにおいても,このことを認識し,又は少なくとも容易に認識し得たものと推認することができる。
エ 本件融資金の使途
(ア) 証拠(甲各2の1ないし4,甲各3,甲各31ないし33)によれば,本件貸出申請書の添付書類には,本件融資金の使途は,「Hカントリークラブ事業資金」と記載されており,これに添付された本件プロジェクトの計画の概要を記載した書面には,資金計画欄において,所要額として,「土地代 90億円,造成・建築費 63億円,会員募集費18億円,その他 25億円」と記載され,調達として,「本件70億円,その他借入 20億円,会員募集 106億円」と記載されている(甲各2の4)が,上記土地代の90億円の明細についての資料は全く添付されておらず,しかも,上記書面の他の部分には,既に土地は「100%取得済」と記載されており,この記載と土地代として90億円が計上されていることとの関係も明らかでないなど,Jの資金使途は,本件貸出申請書及びその添付書類によっては,不明確なままであったということができる。
(イ) しかも,甲各3号証によれば,本件貸出申請前に事業企画室内で回覧され,両被告が目を通していた平成3年11月26日付け「面談記録」には,本件融資金が新事業主体会社がHの株式を買い取るまでのつなぎ資金であり,貸出額は買取予定価格である80億円を考慮したものである旨の記載があったことが認められ,土地代金を90億円とする本件貸出申請書の上記添付書類の記載との整合性には疑義を抱いてもしかるべきであったものということができる上,証拠(甲各31ないし33)によれば,本件ゴルフ場用地の取得代金については,日債銀においても,多く見積もっても25億円程度であることを把握していたものと認めることができる。
オ 本件融資金の回収見込み
上記エに認定したとおり,本件貸出申請書の添付書類(甲各2の4)の資金計画欄の記載によれば,土地代として90億円が見込まれていたのに対し,プレビアが作成した平成3年11月26日付け「面談記録」によれば,新事業主体会社によるHの株式買取予定価格は80億円とされていたのであって,このことからすると,その事業計画は,仮に新事業主体会社がHの株式をすべて買取り,本件プロジェクトにかかわる一切の権利を承継することになったとしても,土地代等に90億円の投資が必要と見込まれているものをそれよりも低額の80億円で売却することを予定するという,不合理な内容であったということができる。
(2) 被告らの注意義務違反
被告Aは,本件融資決裁を担当する取締役として本件決裁を行うに当たり,被告Bは,事業企画室長の職務を担当する取締役として,本件融資を企画,立案し,本件貸出申請を行うことを決定するとともに,被告Aの本件融資決裁を補佐する取締役として本件決裁を可とする判断を行うに当たり,それぞれ,本件融資から得られる利益と本件融資に伴う危険とを的確に把握した上で,本件融資が適法,適切であるか,本件融資に伴う危険に応じた適切な債権保全措置が執られているか等の観点から,本件貸出申請の可否ないし本件融資の可否を判断すべき注意義務を負っていたものと解されること,上記判断の前提となった事実の認識に看過し難い誤りがあり,又は判断の過程,内容が取締役として著しく不合理である場合には,その判断は,被告Aの裁量の範囲を逸脱し,その注意義務に違反するものというべきこと,日債銀のような大規模な組織においては,権限分掌に従って担当各部署がそれぞれに課される基準に従って,誠実に職務が遂行されたものと信頼してその判断をすることが許されるものの,判断の基礎となる資料及び情報の収集等が適切にされ,審査が適切にされたことに疑いを差しはさむ事情があるときは,融資申請部室店の判断や審査部の審査結果をそのまま信頼することは許されないことは既に説示したところである。
そこで,(1)に認定した事実関係の下において,以上の見地から,各被告に善管注意義務違反があるか否かについて検討する。
ア 本件ゴルフ場開発に係る許認可関係に関する事実誤認
甲総9号証及び弁論の全趣旨によれば,ゴルフ場開発に当たっては,都道府県知事の開発許可等が必要とされ,この許可が取得できなければ開発行為を行うことができないため,ゴルフ場開発事業に対する融資を行うに当たっては,法令に基づく許認可が取得されていることが重要視されており,日債銀においても,審査部が,ゴルフ場開発事業に対する融資についての指針として,チェックシートを策定しており,これによれば,指導要綱を確認の上,開発許可申請書(写し)及び許可通知書をチェックし,その信ぴょう性と許可条件について都道府県の窓口(農地課・林務課・宅地課等)に聞き取り等を行い,裏付けを取る必要がある旨が定められており,開発許可が取得できていなければ,原則として融資対象とはしていなかったことが認められる。
そして,争いのない事実等(1)ウ(ア)及び(イ)記載のとおり,被告Aは,日債銀の常務取締役の地位にあり,昭和62年6月から平成元年10月までは,いわゆるプロジェクト案件についての調査,検討を所掌する事開2部を担当していた者であること,被告Bは,昭和62年6月から平成3年6月まで事開2部長の地位にあった者であることからすると,両被告においては,ゴルフ場開発資金を融資するに当たっては,当該ゴルフ場開発に係る法令に基づく許認可が取得されているか,少なくともこれが確実に取得できる見込みであることを確認することの重要性は十二分に認識していたものと推認することができ,かかる重要な事実について看過し難い事実の誤認があれば,被告Bが本件貸出申請をすることを可とし,かつ,両被告が本件融資を可とする判断をしたことには,裁量権の逸脱があり,両被告は,善管注意義務違反の責めを免れないものというべきである。
本件プロジェクトは,Cが昭和48年に取得していた特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認を得た上で,Hが本件ゴルフ場開発を進めることが計画されていたにもかかわらず,本件貸出申請及び本件融資決裁の当時,上記承継承認を受けることは困難な状況にあったこと,このことは,日債銀のいずれかの者が北海道庁や函館市役所に問い合わせれば容易に知り得たものと推認できること,しかるに,本件融資決裁までに日債銀がJから取得していた資料は,Jの作成に係る報告書と正式に受理されたものであることに疑問を抱いてしかるべき特定開発行為の許可に基づく地位の承継承認申請書の写しにすぎず,審査部所見は,「PJ計画の詳細チェック未了であり現状でのPJ案件評価は困難」と記載されていて,審査部が本件プロジェクトについて検討をしていないことが読み取れるものであった上,本件ゴルフ場開発に必要とされる許認可についても,「許認可等の入口リスクもほぼクリアー。」との記載の後に,「との部店判断」と記載されており,融資申請部室店の判断がそのまま記載されていることがうかがわれるようなものであったことは前記(1)イに認定説示したところである。
以上の事実関係の下においては,被告らは,本件貸出申請を行うことを決定し,又は本件融資を可とする判断をするに当たり,本件プロジェクトについては,計画されたところに従って,CからHに対する特定開発行為の許可に基づく地位の承継が承認されるかどうかに疑問を持ち,これが客観的な資料に基づき,確実であることを確認した上で,これを行うべきであったものということができ,これをすることなく,安易に上記承認が得られるものと誤信したまま行われた両被告の判断には,その前提となる事実に看過し難い誤りがあったものというほかはなく,既にこの点において,両被告に善管注意義務違反があったことは明らかというべきである。
イ その他の点についての判断の著しい不合理
しかも,① Jについては,平成3年当時,審査部が,その財務状況が良好ではないこと,日債銀からの融資割合が高すぎることなどを指摘して,融資残高を削減することが急務であるとの所見を述べるなど,同社に対する融資を拡大することについては懸念を示しており,上記所見に目を通す機会があった被告Aはもとより,事開2部長として,長くJの計画しているプロジェクト案件とかかわりを持ってきた被告Bにおいても,このことは認識していたか,少なくとも容易に認識し得たものといえること,② 本件融資金の資金使途は,本件プロジェクトの事業資金とされていたが,本件貸出申請書の添付書類(甲各2の4)に記載された事業資金の明細を裏付ける資料はないなど,資金使途が不明確であったばかりか,事前に両被告が目を通していたものと認められる平成3年11月26日付け「面談記録」(甲各3)の記載と対比すれば,土地代に90億円を要する旨の上記添付書類の記載の正確性には疑問を抱いてしかるべきであったこと,③ 上記添付書類に記載された事業資金の明細と上記「面談記録」の記載とを対比すると,事業計画に不合理な点があることを認識できたことは,前記(1)イないしエに認定説示したところである。被告らが本件貸出申請を行うことを決定し,又は本件融資を可とする判断をするに当たり認識が可能であったこれらの事情を総合考慮すれば,本件融資は,日債銀からの融資額を拡大させることに懸念のあるJに対し,資金使途が必ずしも明らかではないにもかかわらず,更に70億円もの多額の資金を融資するものであり,その回収のための事業計画にも不合理な点が残るものであったということができ,それにもかかわらず,これを可とする両被告の判断は,著しく不合理なものであるとの評価を免れないものというべきである。
ウ 以上の認定に対し,被告らは,被告らが本件融資を可とする判断をするに当たり,融資申請部室店や審査部の判断を信頼することが許される旨の主張をし,被告Bは,新橋支店が作成した平成3年11月22日付け「面談記録」(甲各67)に「許認可についてもほぼ目途がたっておりいわゆる「入口リスク」(事業化リスク)はクリアしていること。」との記載があったこと,審査部が結論的には本件融資を可とする所見を述べていること,Sから口頭で特定開発行為の許可に基づく地位の承継ができるとの確認を得ていること,本件プロジェクトについては,JとQとの共同出資による新事業主体会社の設立が予定されていたことなどから,本件融資は優良案件であると判断したとの供述をするが,既に認定説示したところに照らすならば,これらの情報の提供や所見が十分な,又は客観的な裏付けもなくされていることは容易に見て取ることができたものというべきであり,その前提となる情報の収集が適切にされているかどうかについては疑いを抱いてしかるべきであったということができる。
したがって,被告らが,上記情報や審査部所見を信頼して,本件貸出申請を行い,又は本件融資を可とする判断をしたとしても,その責めを免れることはできない。
他に上記ア及びイの判断を左右する事実を認めるに足りる証拠はない。
エ 前記(1)イに認定したように,本件融資については,審査部の審査が極めてずさんであったことが明らかであり,本件融資金が回収できなかったすべての責任を被告らのみに負わせることは相当ではない面があることは否定できないが,以上に認定説示したところによれば,その余の点について判断するまでもなく,原告が本訴において各被告に請求する5億円の限度においては,原告の請求には理由があるものというべきである。
4 消滅時効の成否
商法266条1項各号に定める取締役の会社に対する責任は,取締役と会社との間の委任契約に基づく取締役の善管注意義務ないし忠実義務の不履行責任に基礎を置くものであるが,その一部については,無過失責任を負わせたものと解されることや,同条5項及び6項に責任の免除に関する特別の定めがあることなどからすると,同条項は,一般の債務不履行責任にはとどまらない特別の責任を定めたものと解される。
このような法定責任は,商行為そのものから生じる債権とは異なり,商法が民法と比較して短期に消滅時効を定めた趣旨である取引関係の早期の法的安定を図る必要はないし,また,商法266条の3の規定との比較からしても,取締役の会社に対する責任と第三者に対する責任とで,時効期間を異に解する合理的な理由はない。
以上からすれば,商法266条1項に基づく損害賠償請求権は,民法167条1項の適用を受け,会社が取締役に対して損害賠償請求権を行使し得るときから10年間で消滅するものと解するのが相当である。
これを本件についてみると,本件訴えが平成13年9月26日に提起されたことは裁判所に顕著であり,日債銀が被告らに対して損害賠償請求権を行使し得るときである本件融資時である平成3年11月27日から10年を経過していないことは明らかであるから,上記損害賠償請求権の消滅時効は成立していないことになる。
5 結論
以上によれば,本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担について民訴法61条,65条1項本文を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

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